発刊日 | 2007年4月3日 |
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定価 | 本体31,000円+税 |
頁数 | 388頁 |
造本 | B5 |
ISBN | ISBN978-4-86043-142-6 |
発行 | (株)エヌ・ティー・エス |
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監修 |
企画・訳註 小林 剛 |
編集委員 |
企画・訳註 小林 剛 |
趣旨 |
【本書の特徴】 将来確実に利用されるであろうナノ製品、すなわち、カーボンナノチューブ類、フラーレン類をはじめ、ドラッグデリバリー、量子ドットなどのヘルスリスク関する最重要文献を厳選して翻訳した。 さらに、ナノヘルスリスク問題の展望として、ナノテクノロジーの特性、暗部の解明、英国政府のナノリスク哲学、わが国のあり方、米国の近況と今後について、現状を総括した。 |
推薦の言葉
日本はこれからも、先進性を追及した「ものづくり」を軸に、知識産業を構築する方向に進むはずだ。20世紀型の効率を重視した大量生産ではなく、知識が集約したものづくりになるだろう。ものづくりの目的は社会価値を提供し、豊かな生活(QOL;Quality of Life)を実現することである。さらに言えば、望ましい機能を実現する「もの」を創造することが必要である。「もの」の機能は分子単体の機能ではなく、分子集合体の機能、つまりナノ構造から高次構造にいたる物質構造に基づいた機能である。 ナノ材料の代表としてナノ粒子が挙げられる。ナノ粒子から構成される材料として、ナノコンポジットがある。ポリマーなどに分散させ、力学強度を増したり、屈折率などの光学物性を変化させたり、電気伝導度を良くしたりする。様々な目的に応じて、ナノ粒子とマトリックス材料の組合せは無限に存在する。ナノ粒子の表面はマトリックス材料と馴染ませるために、界面活性剤やグラフト重合などの表面修飾を施すことが多い。つまり、ナノ粒子の物質と、ナノ粒子表面の官能基や表面物質、さらにマトリックス材料から構成されることになる。 現在多量に用いられているナノ粒子は、カーボンブラック(すす粒子)やシリカ粒子、チタニア粒子、有機顔料粒子、金属粒子などである。10年後にはカーボンナノチューブやフラーレンなどが多量に用いられると思われる。このような状況下で、これらナノ粒子の安全性や毒性について十分な知識を持っておく必要がある。特に重要なことは、個別の安全性試験が必要という認識を持っておくことだ。例えば、カーボンブラックの安全性は、製造する温度が低いとPAH(多環芳香族系炭化水素)が表面に吸着し問題となる。また、表面処理を施す場合に、その表面官能基は安全性に影響を与えるであろう。このように、カーボンブラック一つをとっても様々である。つまり、ナノ粒子の物質と形状やナノ粒子表面の物質や官能基、さらに使用量と濃度などが人体や環境に与える影響を知りつつナノ材料を開発する必要がある。 今後、ナノ粒子の用途開発が進むにつれ、様々な形態で生活に浸透していくことが予想される。研究開発と並行して、製造における安全性と使用時における安全性、さらに環境に暴露された後の安全性などを検討する必要がある。製造時と使用時の安全性検討は比較的実施しやすいが、環境影響は難しい。既に述べたように、個別の製品に対し安全性の試験を必ず行うべきであり、製造安全、製品安全、環境安全に関する標準化された試験方法を確立することが望まれる。以上の意味において、本書に収められた事例研究は精選されたものであり、ナノ材料の製品開発者にとって必読の書といえる。 我々も量子ドット(半導体ナノ粒子)を始め、磁性ナノ粒子、金属酸化物ナノ粒子、さらに単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を実験室レベルで合成し、様々な機能化を試みている。この機能化においては、ナノ粒子の表面を目的に応じ表面改質と表面修飾を行う必要がある。本書は単にナノ粒子の「ナノ毒性」ではなく、ナノ粒子をいかにうまく使うかという示唆に富んでいる。フラーレンからカーボンナノチューブ、さらにドラッグデリバリーから量子ドットという話題性にあふれ、将来確実に利用されていくナノ材料が選ばれている。全てに共通するのは、ナノ粒子表面性状や大きさと形状の生体影響という視点だ。さらに、重要なポイントはナノ粒子の単体としての毒性と凝集体としての毒性が評価されていることである。カーボンナノチューブはナノコンポジットとして、現状のカーボンブラックと同様もしくはそれ以上に社会に出回ると想定される。その際、残留する金属触媒の生体影響の評価は極めて重要であることが述べられている。特に単層カーボンナノチューブは活性が高く、その高次の凝集構造形態の影響も考えて、大量合成技術を開発する必要性を感じた。つまり、安全性を先取りした技術開発を行う必要がある。もちろん、詳細な安全性評価は必要であるが、初期段階から本書に書かれている結果を考慮するだけでも技術開発の方向が異なることを痛感した。また、ナノ粒子を開発する研究者だけでなく、ナノ粒子を用いてナノ材料やデバイスを開発する研究者も、製造安全、製品安全、さらに環境安全の立場から安全性の知識を持つ必要がある。燃料電池や2次電池をはじめ様々な製品にナノ粒子が用いられる。一般的な安全性の評価知識を持ちつつ、多様なナノ粒子の個別性を常に意識して、リサイクルなどの設計も考慮する必要がある。 ナノ材料を研究開発する理由は、これまでのバルク材料にない可能性を秘めているからである。人類が直面する環境・エネルギー問題や、健康で安心・安全な社会を実現する材料である。ナノ材料の研究開発費用の1割くらいを目安に、安全評価に投資するのが望まれる。そして、ナノ材料の安全性評価に関するデータを世界で共有することが必要だ。その小さな一歩として、本書の役割を評価したい。 執筆者の小林剛教授は、ナノ粒子の安全性に関する精力的な研究を通じ、この分野を俯瞰して議論できる人物である。小林教授の情熱と努力に敬意を表しつつ、本書を強く推薦したい。 2007年3月吉日 東京大学大学院工学系研究科 化学システム工学専攻 教授 山口由岐夫
書籍・DVDの内容
総 説 第1章 カーボンナノチューブ―― 毒性レビューと職業・環境ヘルスリスクアセスメント ―― 第2章 ナノ素材は安全か危険か? ―― 初期の研究結果は一部のナノ粒子の健康リスクを示唆 ― フラーレン類 第3章 金属内包フラーレン放射性トレーサーを用いたフラーレンベース素材のin vivo(生体内)研究 第4章 フラーレンの抗原性:フラーレンに特異な抗原とその特性 第5章 水性C60フラーレンからのナフタリンの吸脱着 第6章 水溶性フラーレン誘導体の細胞内所在 第7章 樹枝状C60単一付加物およびマロン酸C60トリス付加物のJurkat細胞に対する細胞毒性と光細胞毒性 第8章 水溶性フラーレンの特異的細胞毒性 第9章 水和性フラーレンのin vivo(生体内)生物学的ビヘイビアー― 14C標識、吸収、分布、排出、急性毒性 ― 第10章 水和性フラーレンのin vivo(生体内)生物学的ビヘイビアー― 14C標識、吸収、分布、排出、急性毒性 ― カーボンナノチューブ類 第11章 ディーゼル排出粒子中の異常なカーボンベースナノ繊維状および連鎖状物質 第12章 カーボンナノチューブの生理学的テスト:それらはアスベストに似ている? 第13章 単層カーボンナノチューブ類によるRNAポリマーの移転 第14章 カーボンナノチューブ素材への暴露 ― 粗製単層カーボンナノチューブ材料の取扱い時間中のエアロゾル放出 ― 第15章 単層ナノチューブ類のマウスにおける異常炎症および線維化反応 第16章 カーボンナノチューブ素材への暴露 ― ヒト表皮細胞を用いたナノチューブの毒性アセスメント ― 第17章 多層カーボンナノチューブとヒト上皮細胞との相互作用 第18章 単層カーボンナノチューブ類のラットにおける肺毒性アセスメントの比較 ドラッグデリバリー 第19章 ナノスケール生物学的鉄酸化物と神経退化性疾患 第20章 アルツハイマー病の脳組織におけるナノスケール生物性磁性鉄の予備的評価 第21章 ナノ粒子薬物伝達の脳移行における表面特性の影響 第22章 ミセル・ナノコンテナの特定細胞質小器官への分布 量子ドット 第23章 半導体量子ドットの細胞毒性の徹底的検討 第24章 前哨リンパ節マッピングのための近赤外線蛍光タイプⅡ量子ドット ナノリスク問題の展望 第25章 ナノリスクアセスメントの現状 第26章 付属資料:英国政府のナノリスク対策 ―加工ナノ粒子によるリスクの特性解明 ―