発刊日 | 2007年8月7日 |
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定価 | 本体25,400円+税 |
頁数 | 206頁 |
造本 | B5 |
ISBN | ISBN978-4-86043-180-8 |
発行 | (株)エヌ・ティー・エス |
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編集委員 |
大背戸浩樹 東レ株式会社 先端融合研究所 リサーチフェロー・研究主幹 金藤 敬一 九州工業大学大学院 生命体工学研究科 教授 直井 勝彦 東京農工大学大学院 共生科学技術研究院 教授 吉武 優 旭硝子株式会社 中央研究所 統括主幹・特任研究員 大森 裕 大阪大学 先端科学イノベーションセンター 教授 安積 欣志 産業技術総合研究所 セルエンジニアリング研究 部門人工細胞研究グループ グループ長 |
趣旨 |
【本書の特徴】 近年、有機高分子材料を、光エネルギーや化学エネルギーを電気エネルギーに変換するデバイス(太陽電池・二次電池・燃料電池)、あるいは電気エネルギーを光エネルギーや力学エネルギーに変換するデバイス(EL、アクチュエータ)へ応用するための研究が活況を呈している。 今後IT、自動車、ロボットなど多くの分野で幅広い応用が期待される「電気エネルギー変換を行う有機高分子材料」を用いたデバイスへの展開の現状と課題が紹介されている。 ※ 高分子学会主催「ポリマーフロンティア21 電気を操る・電気が操る高分子(3)-エネルギー変換デバイスの最前線-」セミナー(2007年2月開催)を講演録として編集。 |
発刊にあたって
序 文 電気というエネルギーは、他のエネルギーから変換することにより生産され、他のエネルギーに変換して貯蔵され、他のエネルギーに変換して利用される。電気の歴史は電気エネルギーと他のエネルギーとの相互変換の歴史として見ることができる。 1799 一次電池(Volta) 化学⇒電気 1808 アーク灯(Davy) 電気⇒光 1834 直流モーター(Davenport) 電気⇒力学 1859 鉛蓄電池(Plante) 電気⇔化学 1869 発電機(Gram) 力学⇒電気 1878 白熱電球(Edison) 電気⇒光 1897 ブラウン管(Braun) 電気⇒光 1926 ブラウン管で「イ」の画像表示(高柳) 電気⇒光 1954 シリコン太陽電池(Prince) 光⇒電気 この歴史において、かつて本質的に絶縁体であると見なされていた有機材料・ポリマー材料は、エネルギー変換のキーマテリアルとして用いられることは長らくなかった。ところが、ポリマー電解質、イオン液体、導電性ポリマー、有機半導体など「電気を操る」新材料が次々と登場するにいたって、有機材料・ポリマー材料は電気エネルギー変換の革新を担う材料として大きな期待を集め、盛んに研究開発が行われるようになってきている。 有機EL(あるいはOLED)は、電気を光に変換するデバイスである。薄型、軽量、自発光、フルカラーが可能という特徴をもち、携帯電話のようなモバイル機器に用いる小型フルカラーディスプレイとしてすでに実用化が始まっているが、さらに文字通りの壁貼りテレビ(超軽量大型平面ディスプレイ)の実現を目指しての研究が進められている。また、ディスプレイだけではなく、照明装置やプリンタ光源としても注目されている。有機ELの大きな課題は、デバイスの長寿命化と大面積デバイスの安価な製造技術である。とくに後者の課題に関しては、現行製品の製造に用いられている真空蒸着に代えて、塗布・印刷などのウェットプロセスでデバイスを製造する技術がキーになると考えられ、これを目指した材料の研究が盛んである。 太陽電池は、これとは逆に光を電気に変換する電気エネルギー生産のためのデバイスである。現状では、有機太陽電池は無機太陽電池の発電効率に及んではいないが、無機太陽電池と比べて大幅に低コストでデバイスを製造できるポテンシャルを有しているため、本格的に太陽エネルギーを利用するためのキーテクノロジーとしての期待が大きい。 石油やガスなどの燃料がもつ化学エネルギーから電気エネルギーを生産するためには、燃料を燃焼させて熱エネルギーとし、これを力学エネルギーに変え、さらに電気エネルギーに変える、いわゆる火力発電という方法がとられてきたが、化学エネルギーを熱を経由せずに直接電気エネルギーに変えられれば、シンプルなシステムで高い効率が得られるはずである。これを実現するデバイスが燃料電池であり、家庭用発電、自動車、モバイル機器電源など、様々な用途への展開が進められていると同時に、キーマテリアルであるポリマー電解質の研究が盛んに行われている。 電気エネルギーを蓄えるデバイスには二次電池とキャパシタがある。この分野では、リチウム二次電池がIT機器や自動車で盛んに用いられるようになり、近年急速な進歩をとげている大容量キャパシタも自動車用補助電源として有望視されるにいたっている。これらのデバイスの高性能化においてポリマー電解質、導電性ポリマー、イオン液体などの有機材料・ポリマー材料はますます重要になりつつある。 アクチュエータとは、エネルギーを運動に変換するデバイスである。今、有機材料・ポリマー材料を用いて電気エネルギーを直接運動に変換するアクチュエータの研究が注目を集めている。有機アクチュエータは、流体アクチュエータのような外部のポンプやモーターが不要、また金属を多用する電磁アクチュエータと比べて軽量であるという特徴をもち、将来のロボットの動力装置、人工筋肉として極めて有望なポテンシャルを有している。また、このような特徴はマイクロメカトロニクス分野でも有利で、能動カテーテルや小型カメラなどへの応用が探索されている。さらに、有機アクチュエータの技術を応用して、逆に力学エネルギーを電気エネルギーに変換する、すなわち発電の研究も行われている。 このように、電気エネルギー変換に用いる有機材料・高分子材料の世界は大きな広がりをみせつつある。しかし、実用化にいたったものはまだわずかで、それぞれの用途ごとにブレークスルーを要する課題が多数あり、これを解決すべく精力的な研究開発が進められている。本書では、その研究の現状、課題、将来展望を紹介したい。本書が読者の本分野に関する理解の一助となり、さらに大きな応用・用途への展開につながれば幸いである。 <大背戸浩樹>
書籍・DVDの内容
目次 序文 第1講 π共役ポリマーが担うエネルギー変換デバイス 1 はじめに 2 生命体に学ぶ材料 3 ソフトエレクトロニクスと導電性高分子材料 3.1 有機材料によるソフトエレクトロニクス 3.2 有機エレクトロニクス材料に要求される性能 4 高性能有機太陽電池 5 有機アクチ ュエータ 5.1 人工筋肉への期待 5.2 ソフトアクチュエータ 5.3 イオン交換膜アクチュエータ 5.4 導電性高分子アクチュエータ 5.5 導電性高分子アクチュエータの変換効率 6 まとめ 第2講 キャパシタの現状と展望 1 はじめに 1.1 キャパシタが注目される背景 1.2 電気二重層キャパシタ(EDLC)の構造と電荷貯蔵原理 2 EDLCの歴史、過去と現在 3 EDLCと二次電池 3.1 特性比較 3.2 安全性はエネルギーデバイスの重要項目 3.3 リチウムイオン電池の安全性 3.4 キャパシタの安全性と電解液 3.5 使用温度域 4 EDLCの代表的応用例 4.1 HEV・ハイブリッド車の補助電源 4.2 自動車以外の用途 4.3 キャパシタがもたらす地球環境の持続と経済発展 5 キャパシタの材料科学 6 キャパシタの大容量化 7 次世代キャパシタ材料 7.1 活性炭材料の高容量化とナノテクノロジー 7.2 次世代EDLC用ナノカーボン材料 7.3 無機系キャパシタ材料 7.4 ハイブリッド化のアプローチ 7.5 有機系キャパシタ材料 8 キャパシタの将来像 第3講 固体高分子形燃料電池 1 はじめに 2 燃料電池技術の開発状況 2.1 燃料電池の種類 2.2 燃料電池開発の歴史 2.3 自動車用燃料電池と最近の進歩 2.4 本格実用化へ向けての課題 3 固体高分子形燃料電池(PEFC)の原理 3.1 PEFCで理論電圧から電圧が下がる理由 3.2 電解質の影響 4 燃料電池用材料の開発状況 4.1 白金触媒と代替触媒 4.2 電解質膜 4.3 膜の劣化と新しいフッ素系膜 5 燃料電池用材料の課題と開発状況 5.1 炭化水素系膜 6 高度解析技術に関するトピックス 7 まとめ 第4講 フレキシブル・プリンタブル有機EL 1 はじめに 2 有機ELディスプレイ開発の歴史 3 有機ELの発光原理 3.1 各種素子構造 3.2 低分子系有機EL材料 3.3 高分子系有機EL材料 4 ウェットプロセスによる有機EL素子作製 4.1 緑色発光素子 4.2 赤色発光素子 5 フレキシブル光集積回路 5.1 フレキシブル光集積回路の原理と用途 5.2 ウェットプロセスによるフレキシブル光集積回路 6 有機受光素子 7 まとめ 第5講 イオンポリマーによるアクチュエータデバイス 1 はじめに 2 高分子アクチュエータ 3 イオン導電性高分子アクチュエータ 3.1 イオン導電性高分子アクチュエータの概要と開発史 3.2 試料作製 3.3 応答モデル 3.4 イオン導電性と電気浸透 3.5 イオンによる応答性能の最適化 3.6 イオン導電性高分子アクチ ュエータの応用例 4 カーボンナノチューブとイオン液体のゲル(バッキーゲル)電極を用いたアクチュエータ 4.1 イオン液体 4.2 カーボンナノチューブ(CNT) 4.3 高性能化のための課題 4.3.1 イオン液体の改良 4.3.2 カーボンナノチューブの分散性の改善 5 まとめと今後の展望 索引 プロフィール